アレックスのこと

レックスとは、実家で飼っていた犬のこと。いまから13年前、僕が中学を卒業する頃。母が知人宅で生まれた子犬を引き取るかたちで我が家にやってきた。柴犬の血を引く雑種。性別はオス。ガンダムにちなんで名付けられた。

レックスは見る間に大きくなった。優秀な番犬として育った。朝は父母が、夜は僕と弟が交代で散歩につれていった。夕方になると急かすように吠えるから、散歩が面倒に感じる日もあった。でも行けば行ったで何かしら発見があったり、閃きがあったりして、楽しくあったのも事実だ。

レックスは、自分を感じるところが多々あって、そこが可愛くもあり、憎らしくもあった。ある日、僕が散歩に連れて行こうと首輪の鎖を外したところ、彼は物凄い勢いで庭の外に飛び出した。慌てて追いかけると、今まさに車道に突っ込もうとしているとこだった。そして、間髪入れず、アレックスは走る車に突っ込んだ。ゴスっという音がして、キャンと鳴いて、僕は頭が真っ白になった。もう駄目だと思った。だけど、気がついたら彼は生きていた。無事のようだった。逃げるように駆けてきて、僕の足下でうずくまって、アレックスは小便をもらしはじめた。どうやら外傷も無い。ホッとした。それと同時に、彼の悪運と生命力の強さ、我が侭なのに弱虫な性格に、僕は自分を見た。

高三の冬に父が亡くなり、次の春に僕は大学に進学したので、それからは母と弟がアレックスとともに生活していた。さらに三年して弟も大学に進学したので、この六年は母とアレックスが実家で暮らしていた。そんな彼が、今日、亡くなった。実家に帰るたび、衰えていってるのは感じていたし、そろそろかなと覚悟はしてたけど、それでも死は受け入れ難かった。母から知らせを聞いた後、僕は院棟の外で、しばらく白くなっていた。

最後に彼を感じたのは、近所の犬が遠吠えしていたとき、ちょうど1週間くらい前かな。アレックスの鳴き声に良く似ていて、ひょっとすると虫の知らせだったのかなと思う次第。今では偲ぶことしかできないけど、アレックス。僕らと暮らしてくれて本当にありがとう。そしてお疲れさまでした。