なにも知らない

丑三つ時.一日の作業が終わる.大学院棟を出て,駐車場に向かって歩いていく.まもなく雑木林に突入する.昼は絨毯のように柔らかかった黒土が,ザクッザクッと音をたてる.葉のない枝々をくぐり抜け,街灯に眩しさを覚えれば,外.今度は,舗装された坂を下っていく.道の脇には常緑樹が生い茂っている.夜空は2Hの鉛筆で塗りつぶしたよう.遠くに中世の塔のようなアンテナが見える.

..と,ここまではいつもの風景だ.だが今日は,ふと重大なことに気づいてしまった.僕は,常日頃からすれ違っている木々について,なにも知らないことに気づいてしまったのだ.名前も,特性も,樹皮の手触りも,どのような実をつけるかも,僕は,その一切を知らない.ただ漠然と,雑木林・常緑樹とみなし,興味の埒外に置いてきた.

なにも木々に限った話じゃない.僕は森羅万象に対して,こうした態度をとっていたのではないだろうか.そんな自身の無関心ぶりに気づいて,急激に恥ずかしくなった.だが,はからずもこれが,生来の愚直さに火を点けることになった.世の中には知らないことが多すぎる.いや,知ろうとも思わないことが多すぎる.であれば,一つでも知っていこうじゃないか.そう意識したときから,何故だか何もかもが楽しくなってきた.

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