午前3時,男はエナジーを欲す.

学部生の頃に住んでいたアパートには,通りに面してダイドーの自動販売機が設置されていた.課題や制作に追い込まれ,睡魔にコーヒーが太刀打ちできなくなったころ,決まって僕は財布から120円を握り締め,エナジージムを買いに行った.そしてガコっと落ちた瓶を手に,ぐびぐび飲んで帰るのが常だった.

エナジージムは,きっとデカビタCのコピー商品だ.だけどデカビタCより,ずっと優しい味がする.この優しさは瓶の形状にも現れている.デカビタCの瓶がギザギザとした肌理で,飲み口に向かって鋭角にすぼんでるのに対し,エナジージムの瓶は丸っこく,飲み口がヒュッとすぼんでいる.この滑らかさが,深夜の疲れた身体を,不必要に刺激しないでくれる.ローヤルゼリーの甘みと,栄養剤風の味わいと,心地よく弾ける炭酸がもたらす,束の間の安らぎをと,もうひと踏ん張りの元気を,エナジージムの瓶はそっと支えてくれる.

そんな気がして,はや10年近く経とうとしている.今日も僕は,午前三時にエナジージムを買いに部屋を出た.住んでる場所は変わっても,そこにダイドーの自動販売機さえあれば,僕は朝まで戦える.