自分で何かが作れるようになって、今年で10年になる。そこで、これまでを振り返り、ここからを見据えようと、こんな文章を書いた。
---
TVっ子だった私は、ビデオカメラと高性能なパソコンが自由に使える大学に入学し、映像の作り方を学び始めました。映像は時間を操る表現です。ショットとショットをつなぎ、新しい時間の流れを作る表現です。早回しにしたり、コマを落としたり、スローモーションにすることもあります。時間をループさせることもできますし、逆順で話を展開することもできます。
映像は時間を自由に操ることができます。そして、いい映画は時間の経過を忘れさせてくれます。しかし映画を見終わり、劇場を後にすれば、現実の時間が広がっています。夢のような時間は過ぎ去り、普段通りの生活が待っています。若かった私は、ここに映像の限界を感じました。そして映像がリーチしない時間に対して有効なメディア(表現媒体)を模索するようになりました。
当時、私は大学の近くに下宿していました。勉強やアルバイトに疲れて家に帰ると、決まって部屋の明かりを暗くして、パソコンから音楽を流し、お香を焚いてまったりしていました。そんな習慣が元になって、InSceneという情報家電ができました。その後、駅から徒歩10分のところに引っ越しました。マンションから駅までの移動時間が退屈だな。そんな折に、振るとチャンバラの音がするビニール傘・雨刀ができました。
これらの制作を通して、暮らしの時間に忍びこむメディア、すなわち「ガジェット」の創造法が、おぼろげながらも掴めるようになりました。これまでの理解を学位論文にまとめ終えると、今度は新しい切り口でガジェットを作ってみたくなりました。そこで2010年12月にシンガポールへと渡り、相転移的装置と称する玩具の制作を始めました。「一瞬」にして機能が変化するニンジャトラック。合体と変形の「過程」を楽しむキャタピー、スイッチングの「スピード」と「タイミング」で振舞いを変えるアシボ。これらはすべて水・氷・水蒸気の相転移現象に触発されて作ったガジェットです。しかし振り返ってみれば、その面白さは常に時間とともにあったのです。
それに気付くと、時間を持たないものに時間を与えたらどうなるだろう、という新たな興味が湧いてきました。そこで現在注力しているのが、逆転のロボットアニメという取り組みです。これまでに、踊る箱、もじげんとすうじげん、というガジェットが完成しています。今後さらに増える予定です。
物理の法則に従うガジェットは、実際の時間を操ることはできません。ですが、いいガジェットがあれば、いい時間を過ごすことができます。興奮したり、安心したり、発見があったり、生きた時間を楽しむことができます。私は、そうした時間を作るガジェットを作りたいと思っています。