徳の外需と内需


昨年度までシンガポールで一緒に働いていた安さんのブログが面白い。安さんはSNSで街宣活動に励むタイプの人じゃない。だからこそ安さんが何を考えているのか、むしろ気になる。そんなわけで彼がブログを始めて以来、毎週更新を楽しみにしている。
 
最近の記事で特に面白かったのが、「徳コイン」という話だ。内部の評価と外部から評価を、組織に所属する個人としてどうやりくりするか、気づかいの安さんらしい視点で綴った文章だ。

良い行いをすると、徳が積まれるという。
それにならって、組織の中で仕事をすることで得られる評価や信頼、感謝をまとめて『徳コイン』と、勝手に呼んでいる。

徳コインの貯め方は2種類あって、1つが組織の中の人のための仕事をすること。後輩の世話をしたり、環境を整備したり、頼まれごとを手伝ったり。必要なことではあるのだけれど、これで貯まるコインは、実はその組織の周囲でしか使えない。

もう1つの方法が、自分の仕事をして、組織の外の人に認められること。コンペに勝ったり、賞を獲ったり、バズったり。このコインのほうが、得るのは覚悟がいるけれど、一度の量が多いし、使える範囲が格段に広い。

(徳コイン  https://yskntr.tumblr.com/post/155894766308/%E5%BE%B3%E3%82%B3%E3%82%A4%E3%83%B3 より)

この記事を読んで、一つの記憶が蘇った。それは僕が学生だった頃の話だ。ある先輩が、卒業後に海外で働くことに決めた。他の先輩はみんな国内で就職していたから、不思議に思って理由を聞いた。すると先輩は「外貨を稼ぐと、日本のためにもなるんだよ」と教えてくれた。
 
その言葉の意味は、実はまだ良くわかっていない。僕はシンガポールドルで給料をもらってるけど、日本のためになってるのか実感は無い。
 
だけど、外から徳コインを集めると、個人だけでなく組織全体が豊かになることは、僅かな経験からだが知っている。誰かが徳コインをもらってくると、他の人も幾らかゆとりをもって働けるようになるのだ。僕も職場に優秀な仲間がいてくれたおかげで、どれだけ助けられたことか。逆に外からの徳コインが途絶えると、組織が芥川龍之介羅生門的に、ギスギスするのも知っている。
 
安さんと同じで、どっちの徳コインが偉いとか凄いとか、そういうのはどうでもいいと思う。でも、外からの徳コインがあるかないかで、組織の余裕であったり、文化の豊かさが変わってくるのは確かだ。