ヤマメとサクラマス

今朝のNHKの放送で、心に響くものががあった。それは自然番組の一節で、ヤマメとサクラマスについての映像だった。

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ヤマメの幼魚は川虫を食べて成長する。川虫は流れの強いところで獲れるので、幼魚間で餌場を巡って争いがおこる。初期に餌場を確保できた幼魚は、潤沢な食料によって、さらに成長する。餌場を確保できなかった幼魚は、うまく成長することができない。こうして幼魚間の体格差が広がる。強いヤマメは急流に耐える体を手に入れて、さらに恵まれた餌場で暮らせるようになる。弱いヤマメは流れの穏やかな川淵で、ひっそりと生きざるをえない。

だが、話はそれで終わらない。弱いヤマメは、ある日、一大決心する。体を海水仕様へ仕立て直し、川を降って海に出るのだ。こうして弱いヤマメは、母なる海の潤沢な栄養をえて、巨魚・サクラマスへと変化を遂げる。体格は川魚の比ではない。上あごは大きく飛びで、体は赤い斑紋が浮かんでいる。歴戦の勇者のような威厳を感じさせる。

悲しいのは、そのあとだ。海に出て大きく育ったサクラマスも、産卵のためには川に戻らなければならない。いくら逞しい体を得たとはいえ、遡上するのは並大抵ではない。川の流れ、大地の高低、それに加えて滝もある。こうした障害を乗り越えて、生まれ育った渓流へとたどり着く。だが受難はそこで終わらない。川に居続けたヤマメが、産卵の邪魔をしてくるのだ。相対的に小柄なヤマメのオスは、サクラマスのメスの下に潜り込み、生みたての卵に精子をかけてくる。卑劣と言わずしてなんと言おうか。

最期は、さらに辛い。海に渡ったサクラマスは、産卵によって命脈が尽きる。流れ落ちるサクラマスをよそに、ヤマメはさらに一年、川で暮らすことができるのだ。

シンガポールから日本に戻ってきた自分には、どうしてもサクラマスに同情してしまう。朝から少しセンチメンタルな気持ちになりながらも、自分も遡上の努力を続けたい。