光造形3Dプリンタ Anycubic Photon 導入時に必要なもの

2019年12月追記

購入から1年後の改訂版もご覧ください。

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SIGGRAPH Asiaでの展示後に、光造形の3Dプリンタを買った。個人用の光造形機だとFormlabsのFormシリーズが有名だが、50万円という価格には二の足を踏んでしまう。そこで、本体価格が5〜6万円代と廉価で、国内のユーザ数も多いAnycubic Photonを購入した。中国から輸入しなくても、Amazonで買えるから安心。

これまで使ってきたMakerBotほかFDM式の3Dプリンタは、糸状の樹脂(フィラメント)を溶かしながら積み上げて、立体物を造形する。一方でPhotonは、液状の樹脂(レジン)を紫外線で固めながら、一層ずつ積み下げて造形する。材料が液状なので、事前事後の清掃がまどろっこしい。それに臭気がひどい。レジンも臭いし、レジンを拭き取るためのアルコール(IPA)も臭い。プラモデルなんかの比じゃない。生活空間では絶対に使えない。

そんなわけで、買って数回は全く満足に使えなかった。自分には早すぎる道具かなと思った。しかし先人の知恵*1を拝借しながら作業環境を整え、作業フローを詰めて行ったら、楽しく美しく造形できるようになった。

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上の大仏を見て欲しい。CD Prayer用に出力していた3Dモデルを、iPod Shuffle (4 Gen)用に縮小して、翡翠色のレジンで出力したものだ。FDM式どころか、自分の手技でも到達できない緻密な造形には驚嘆した。

次は灰色のレジンで出力したミロのヴィーナスだ。

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土産物屋なんかが売ってるヴィーナスは、人間の目と手で縮小しているから、演出としての誇張が含まれてしまう。これはオリジナルサイズの複製を3Dスキャンしたデータを元にしているから、小さくなっても正確だ。思わずマクロレンズが欲しくなる出来栄え。他にも機構部品などを出力しているが、設計通りの寸法で造形できるから、ピタッとギアやモーターがはまってくれる。感動しかない。これまで使ってきたMakerBot R2Xでは、精度に±0.25mmのブレがあった。だからタイトめに作ってヤスリで合わせる、といった手間が不可欠だった。しかし精度が±0.05mmのPhotonなら、その手間がいらない。

かくして自分は、光造形の虜になった。FDM式は、ミニ四駆を作るくらいで済むけど、光造形はスケールモデルを組み立てるくらい手間がいる。でも、手をかけただけの報いが得られるから、最高だと思う。みんなにも最高を感じて欲しいので、今日は自分が揃えた道具をシェアしたい。

 

導入時に買うべきもの

イソプロヒルアルコール(IPA)

PhotonはレジンにUVライトをあてて積層する。Photonのレジンはお好みソースのようにドロドロで、出力後は必ず装置内のレジンを拭き上げなければいけない。また出力直後の造形物も、未硬化のレジンでヌルヌルしている。そこでIPAというアルコールを使って洗浄する。最低でも装置清掃用に250cc、造形物ゆすぎ用に500cc x 2は用意しておきたい。なので、まず2ℓは買っておくといい。自分は初回に1ℓ缶を買ったが、全然足りなかったので、後日追加で4ℓ入りを買った。なおIPAは可燃性の液体だ。スプレー缶なんかと同じように、火元の近くにおいてはいけない。またIPAは、ABSなど一部の樹脂をクラックしてしまうので、取り扱いには要注意だ。

 

そそぎ口

広口瓶

スポイト

この3点は、IPAを取り扱う時に必要になる。まず、IPAを小分けにするために、そそぎ口が必要だ。ペール缶ならベロが必要だし、ボトルならノズルがあったほうがいい。IPAは水よりさらさらした液体なので、これらがないと注ぎ漏らしを起こすだろう(起こした)。次に拭き取り掃除用に、少量のIPAを入れておけるボトルが欲しい。これは試薬用の広口瓶がいいと思う。自分は250ccの物を使っている。そしてスポイト。これは試薬広口瓶内のIPAをバットに注ぐ時に使う。2ccくらいのサイズが便利だと思う。これらは通販よりホームセンターの塗装コーナーで安く手に入る。試薬瓶の代わりに、コットン用のポンプ(こういうの)がついたボトル買うと、キムワイプをしめらすのに便利だ。これは100円ショップでも手に入る。

タッパー x 2

トレー

出力後の造形物は、未硬化のレジンでヌメっている。そのヌメりを濯ぐために、IPA槽が必要だ。自分はパッキン付きのタッパーを2つ使い、一次濯ぎと二次濯ぎで分けている。IPA槽の大きさは、Photonの造形サイズ(11cm x 6cm x 15cm )を基準にすれば問題ないだろう。また作業台汚れを防ぐため、プラスチックか金属のトレーが2つ欲しい。底は浅いもので構わないし、新聞紙や段ボールでも代用できる。以上の道具は、100円ショップが安い。

作業終了後は、こうやって道具を保管している。

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樹脂ヘラ

プラットフォームから造形物を取り外したり、バットに残ったレジンをかき集めたりする際に、ヘラが必要になる。Photonにも最初からヘラが付いてくるが、造形物を取り外すには柔らかすぎ、清掃するには小さすぎで、最適とは言えない。金属製も造形物やバッとのフィルムを傷つけるからよくない。上の写真の白いヘラは、幅が大きくて使いやすいが、柔らかすぎて刃が欠ける。おすすめは、カーボンはがしヘララバーヘラ。 

キムワイプ&キッチンペーパー

Photonは毎使用後にバットと造形台座(プラットフォーム)に残ったレジンを拭きとる必要がある。その時に、キッチンペーパーとキムワイプを使う。自分の場合、まず大まかにキッチンペーパーでぬぐいとる。次にIPAを染み込ませたキッチンペーパーで拭き取る。最後にIPAをつけたキムワイプで拭きあげている。キッチンペーパーは水分で破れにくいものをホームセンターで探す。キムワイプはホームセンターで手に入らないので、Amazonで買うのがいいと思う。 キムワイプでフィルムに傷がつくと思う人は、JKワイパーが良いらしい。

 

濾紙

造形後、バットに残ったレジンは濾過して再利用ができる。逆に濾過せずレジンを再利用すると、装置に致命傷を与える可能性がある(硬化したレジンクズがプラットフォームに押しつけられて液晶を割る、など)。そのため濾紙(ペーパーストレーナー)が必要だ。ペーパーストレーナーは、理科実験で使った濾紙とは違い、周辺部が紙製で、中央が樹脂製の網になっている。Photonにも10枚ほどついてくるのだが、梱包の都合で潰されており、非常に使い勝手が悪い。だから導入時に予め新品を買っておくべきだ。

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加えて漏斗台も用意した方がいい。バットはアルミ製で割と重く、粘度の高いレジンの濾過には数分かかる。マニュアル通り、片手にバット・片手にストレーナーで濾過をするのは、大の男でも辛い。だからスタンドが必要になる。専用のストレーナースタンドも海外なら売っているみたいだが、シンプルなわりに値段が高い。そんなわけで、自分はホームセンターで買った角材と金具を利用して、上の写真のようなスタンドをでっちあげた。これなら500円もしないし、十分機能する。

 

防毒マスク

光造形の欠点は、化学物質による臭気、そして肌荒れである。まず臭気だが、レジンとIPA、双方に辛い。心臓がバクバクし、脳みそがバカになるような感じがする。自然換気では追いつかないので、絶対に防毒マスクを用意すべきだ。3Mの有機溶剤作業用(黒)もしくは塗装作業用(白・粉塵が防護できる)の防毒マスク、どちらか安い方を買えばいい。Photonにも簡便なマスクは付いてくるが、専用のマスクに比べれば隙間も多く、メガネが曇りやすいし、使い勝手が悪い。

 

ゴム手袋

UVレジンはアレルゲンで、IPAは肌の油分を容赦無く奪う。そのため素手で作業すれば、いやが応にも肌が荒れる。よってゴム手袋が欠かせない。Photonにもゴム手袋が3点付いてくるが、いくら丁寧に作業しても、直に汚れて使い物にならなくなる。自分の手の大きさにあった手袋を、あらかじめ買っておいたほうがいい。医療用や食品加工用のゴム手袋が密着感があっていい。これはホームセンターより通販の方が安い。

 

蓋つきのゴミ箱

汚れたペーパー、濾紙、ゴム手袋を捨てるために蓋つきのゴミ箱が欲しい。自分はダイソーで買った、サニタリー用のゴミ箱を使っている。

 

ニッパー

ヤスリ

造形後のモデルにはサポート構造がびっしりくっついているので、手元になければプラモデル用のニッパーとヤスリを揃えるといい。ニッパーは消耗品なので、Aliexpressで買ったものを愛用している。これはCerevoの技術ブログで知った。

tech-blog.cerevo.com

ヤスリは、タミヤのハードコートやすりPRO(半丸/7.5mm)が最高すぎて、ここ8年ほど手放せない。耐久性があるし、金属も削れる。リーマー的にも使える。問題はヤスリ自体が硬すぎることで、ハードコートやすりPROでも薄手のもの(丸/3mm径や先細/6mm幅)は、ちょっとした力で折れてしまう。だから、細かい部位を削る場合は普通の模型用ヤスリを使ってる。