古いノートから

今週はチャイニーズ・ニューイヤーの関係で、職場も人が少なく、ゆっくり仕事をすることができた。せっかくの機会なので、新作の準備を始めたり、クロッキー帳やEvernoteに書き留めた作業ノートを整理して過ごした。

古いノートを読み返すうち、妙に力のこもった文章を発見した。2016年の春から夏にかけての試行錯誤を、その年の秋に振り返って書いたものだ。とりとめのない文章で気恥ずかしくもあるが、面白いところもあるから転載しようと思う。

今年は春から時間ができて、これまでのプロジェクトを整理することができた。手始めに、長らく進歩のなかった「踊る箱」を見直すことにした。2013年の夏に始めた、自ら転がり回る立方体を作るプロジェクトだ。手探りで、寸暇を惜しまず取り組んだけど、どうにもうまくいかなかった。
 
失敗の理由は多々ある。創造力と技術力の欠如で、コマ撮りアニメやCGができること以上のイリュージョンが作れなかったせいもある。開発中にMITやETHからずっと高性能な立方体が登場してしまったのも外因としてある。端的に、プロジェクトに専念する時間がとれなかったのも大きい。
 
最も根の深い問題は、無機物が動くと生命感が宿って面白いかも、という気持ちでプロジェクトをやっていたことだ。こっそり「非生物生物」なんて呼んだりもしていた。幸い2014年・2015年と2年も停滞していたおかげで、ここに疑問を持つことができた。
 
そもそも人間は、詩人じゃなくたって、カーテンが風に揺れているだけでも、雨粒が窓をつたっているだけでも、そこに生命や神秘を感じることのできる生き物だ。そんな人間にとって、強いて人工物に生命感を宿らせる行為は、どういうことなのだろうか?
 
成功例からあげてみよう。Macのスリープランプは成功例だと思う。ホタルみたいに点滅するから、愛嬌がある。necomimiはどうだろう。人間がアニメ化する感じ、に近いのかもしれない。
 
もちろんバイオミメティクスや、アニマトロニクスという分野があるくらいだ。機械やマテリアルやサイエンスで生物の機能を再現することは面白いし、技術的な挑戦もあるし、擬人化すると可愛くなるし、親近感も湧いてくるのは理解出来る。
 
一方で、車やバイクは生命感がないけど、我々は愛車・愛馬と呼んで可愛がったりする。
 
本物の生命と、生命感の違いは、死だ。愛車が壊れたら、それは深い悲しみに襲われる。パソコンが壊れたら、片足を失ったかのように、生活がままならない。だけど大切な人を亡くした時に比べれば、その辛さは圧倒的に浅い。
 
リアルとリアリティの違いと同じだ。VRは何度でも同じ環境を再生できるから、現実ではない。でも、私たちの生活に二度はない。
 
今の自分は、単なる機械にも愛着を抱いてしまう人間のほうに、より強く興味がある。小説で喩えると、細胞を擬人化したパラサイト・イヴより、人間がウィルス的に行動するヒュウガ・ウィルスにこそシンパシーがもてる。ロボットなら、ASIMOよりも工場用ロボットアームの方が、自然な愛着を持つことができる。
 
こうして「ロボットと生命感」というテーマが冷めていく一方で、新たに自分のなかで「ロボット=時間を与える装置なのでは?」という想いが熱くなってきた。

そして踊る箱の解体を始め、30個弱のサーボモータを手に入れた。これを元手にボトムレス・ジョイスティックロボタイプ: もじげんとすうじげんを作った。

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それがきっかけになって、2月25日(日)まで東京は六本木ヒルズ52F展望台で開催されている、Media Ambition Tokyo 2018に、ロボタイプ: 7x7CD Prayerを出展させてもらえている。東京を代表するクリエイティブ系企業や集団があつまって、彩の豊かな展示になっています。伝え聞くところによると、平日も週末も大盛況とのこと。自分の作品も埋もれず健闘しているようです。嬉しい限りです。

会期も残すところ10日ほど。たまには午後出勤にして、朝から展示はいかがでしょうか?冬は空気も澄んで、夜景がたまらなく綺麗です。六本木はレストランも多いですし、仕事帰りの夜デートにも良いですよ。

ぜひお立ち寄りください。

mediaambitiontokyo.jp

2017年に買って良かったもの

田中さんに影響されて、僕も昨年買って良かったものをリストすることにした。

pho.hatenablog.com

 

吉永サダムのスープカップ

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3月に九州を旅行して、唐津焼や有田焼、伊万里焼に波佐見焼をいくつか買った。そのうち、もっとも使用頻度が高いのは紙皿風の波佐見焼だが、愛着を持って使っているのは吉永サダムのスープカップ。素朴な風合いと、たっぷりした姿が好きだ。蕎麦猪口なので仕様頻度は少ないものの、中里太亀の陶器もテクスチャーが好みで愛用している。

 

南部鉄器の鍋敷き

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常夏のシンガポールに暮らしているのに、我が家はかなりの頻度で鍋をする。二人暮らしなので、台所で一気に煮た後、そのまま食卓に鍋を置くことも多い。なので8月に東北を旅行した際に、南部鉄器の鍋敷きを買った。以来、使ってない時も、ずっと食卓に鎮座している。それがアクセントになって、なんかいい。

 

フンドーキンの味噌

2016年の春に湯布院温泉へ行き、そこで食べた「だんご汁」がとても美味しかったので、以来我が家は大分の味噌のファンになった。フンドーキンは大分の調味料メーカーで、全国的には柚子胡椒で有名だと思う。そこの味噌を、先述の九州旅行の折に買ってみた。これが最高に美味かった。いくつか種類を試して見たけど、どれを選んでも間違いなかった。都内ならスーパーにも売っていると思う。

現在、我が家は赤味噌は愛知の八丁味噌、合わせは大分のフンドーキン、あとは旅の気まぐれや、安さにつられて買った味噌をストックしている。

 

立体型アイマス

昔はいくらでも飛行機で寝れたのに、最近はうまく眠れない。原因はいくつか考えられて、ひとつは搭乗前の飲酒。寝つきをよくするために敢えて飲んでいたのだが、かえって睡眠が深く短くなってしまい、ゆっくり寝て過ごすことができない。もうひとつは機内の照明と座席スクリーンの光だ。

そこで事前の飲酒をやめ、航空会社が配布するアイマスクを大人しく使うようにしたところ、だいぶ良く眠れるようになった。しかし自分の頭は大きく、顔の彫りも浅いため、普通のアイマスクでは眼球が圧迫されてしまう。そのため起床後は半日くらい違和感が残って不愉快だった。

そんなわけで、上記のアイマスクを買った。これの長所は、目と鼻の周りが膨らんでおり、さらにベルトの長さが調節できるため、圧迫しないで密着できるところだ。このアイマスクを装着したうえで、飛行機で寝るときは使い捨てのマスクで口と鼻を、パーカーのフードで耳をガードしている。すると熟睡できうえ、風邪ももらわない。はたからみれば怪しすぎる風貌で、着陸後は寝癖に困らされるが、機内での睡眠に不安を持っている人にはオススメしたいコンビネーションだ。

 

ミニスーファミ 

www.nintendo.co.jp

2016年にファミコン版を買い逃したので、スーファミ版は必死になって買った。ファミコンのゲームは難易度や操作感が洗練されてなくて、今から遊ぶと流石に辛いところがある。だけどスーファミは今でも十分楽しめる。25年前のゲームだというのに、これは異常だ。「がんばれゴエモン2 奇天烈将軍マッギネス」や「バトルドッヂボール」、あとは「ロマサガ2」なんかが入っていたら、個人的には完璧だった。メガドライブミニも出て欲しい。

 

三ヶ島の自転車ペダル

2016年の初秋に自転車を買い、しばらく快適に使ってきたのだが、 1年を過ぎたあたりでペダリング中に異音がするようになった。何度か自転車屋に通って、最終的にはカップ&コーンのグリスアップで治ったのだけど、問題発見の過程で三ヶ島製のペダルに変えた。決して高くないのに、吊るしの自転車についてきたペダルに比べて、格段に軽く回って感動した。自転車は回転する部品の摩擦を減らしてくことが大事なんだなと教えてくれた一品。

 

イボ取りジェル

いつ頃からか顔にイボができるようになった。自分は容貌に無頓着だから、はっきりとした時期を覚えていない。それが最近になって、髭を剃ったり、メガネをかけたりするときに邪魔だなぁと思い始め、自力でとることにした。最初は絆創膏や液体のイボコロリを使ってみたのだけど、場所が場所だから定着が悪い。そこで見つけたのが、ジェル状のイボ取りだ。これを塗布すると、毎日わずかにイボの皮がめくれていく。数ヶ月使って、小鼻のイボはかなり小さくなったし、鼻筋のイボも半分くらいになった。これで正しい位置でメガネがかけられる。

注意すべきは、この薬剤は揮発しやすいので、冷蔵庫にしまう必要がある点だ。そしてなにより、顔への使用が禁止されている点は強調しておきたい。

原点へ

今年は努力が空回りすることが多く、なんだか歯がゆい一年だった。その一方で、人の縁には恵まれていた。とりわけ首都大の馬場さん、札幌市大の藤木さんにお会いできたのは嬉しかった。

自分が学生の頃に影響を受けたのは、研究室の先輩だった植木さんと徳久さんの後ろ姿、田所さんや久世さん、堀尾さんといった先駆者がアップロードしていたWEB教材、メディア芸術祭で見たクワクボリョウタさんのデジタルガジェット6,8,9、そして当時の九州芸工大で活躍されていた藤木さんと馬場さんの作品だった。

馬場さんのフレクトリックドラムスは、単に楽器やガジェットとして洗練されているだけでなく、座の遊び、和を作るメディアとして、強烈な衝撃を受けた。

藤木さんは、ゲーム的な表現方法を利用しつつ、超主観的な世界を構築しようとするアティチュードがかっこいいし、なにより作り込まれてて遊んで楽しい。

藤木さんも馬場さんも自前で技術と表現を作っている。だからか、ひとまとまりの経験としてのデザインが優れている。「文章做到極処、無有他奇。只是恰好」という洪自誠の言葉があるけど、まさにそれが当てはまる。そこが同時代に登場した技術デモ的な作品とは一線を画して美しかった。しかも作品が商品というかたちで世にも出ている。だからこそ、僕は彼らに憧れる。

そんな尊敬する馬場さんと藤木さんに、今年は夏と冬のSIGGRAPHで会うことができた。短い時間だったけど、考えていることを交換することができて、感動したし元気がでた。

アキレスと亀かもしれないけれど、やっぱり懲りずに自分で考え、手を動かしてきて良かったと思う。道はいよいよ狭い。同年代の友人たち、とくに日本人を含むアジア人は、歳を経るごとに後衛に回って寂しくもある。それでも前線に立つことで生まれる縁があるから、人生は喜ばしい。

今年も仕事納めまで残り2週間。やれることをやり尽くして、来年も作って楽しもう。

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