意識から消えないもの

僕は遊具ばかりを作って、あまり道具は作らない。道具のデザイナーは、使い手の意識から消えるのが良い道具、みたいなことを時々言う。とりわけデジタルよりのデザイナーに顕著だと思う*1

遊具の場合はどうだろう。例えばけん玉で遊んでいて、けん玉を意識しなくなることはなんてあるんだろうか。ゲームで遊んでいてゲームを忘れることは?楽しさに我を忘れることはあっても、つまり時間感覚が狂うことがあっても、遊具に対する意識は消えないと思う。

翻って道具の場合はどうだろう?僕はベトナムで買った茶碗でご飯を食べるのが好きだ。気に入った形や手触りの茶碗で食べると、紙皿やダイソーの108円陶器で食べるより、ずっと満足できるからだ。そのとき僕は、道具への意識が無いとは思わない。僕にとって良い道具とは、意識したい道具だ。

道具は使い手の意識から消えるべき、これは謙虚なデザイナーの心の現れであって、デザインの実際ではないのかもしれない。良い道具は、芸術と変わることなく受け止められる。遊具もまた、そうなりえるのではないだろうか。

*1:この点については「メディアは透明になるべきか」という本に詳しい。

器官と時間

ここ数年のゲーム開発者との協働によって得たものの1つが、ゲームデザイナーへの正しい理解だ。僕は長い間、ゲームデザイナー=ゲーム中のグラフィックやサウンドをデザインする人、と勘違いしていた。実はそれはゲームアーティストの仕事だった。ゲームデザイナーは、ゲームをゲームらしくする仕事をしている。つまりルールを考え、プレイ時間や敵の強さを調整し、ゲームを面白く設計するのが彼らの役割だ。

デザインには、意匠と設計の二つの意味があるけれど、ゲームデザイナーはかなり設計よりのデザイナーだと思う。視覚や聴覚など感覚器官を刺戟するのが意匠よりのデザインだとすれば、遊んだり使ったりするときの時間感覚を刺戟するのが設計よりのデザインなのかもしれない。

いや、むしろデザインは器官と時間で捉えたほうが、多くの活動をデザインとして扱えるのではなかろうか?たとえば食事や遊びなんかは、意匠と設計より、器官と時間のほうが勝手がいい。この尺度を手に入れてから、もっとデザインが楽しくなった気がする。

カメラ熱

カメラ熱という恐ろしい病気がある。アジア圏の成人男性に多く見られる恐ろしい風土病だ。発見から既に150年以上も経過しているが、いまだ治療法が確立されていない。一度発症すると生涯にわたって患うため、家計によっては難病に指定されている。現時点では、新型のカメラを買う、ライバルメーカーの欠点をあげつらう、ライカを買って解脱する、といった治療が対症療法ながらも有効とされている。

さて。僕が初めてカメラ熱に感染したのは2007年の夏である。ブラジルでの展示に向けて記録用のデジカメが欲しくなり、散々悩んで富士フイルムのFinepix F31fdを買った。F31fdはコンパクトで、バッテリーの持ちがよく、当時にしては高感度にも強く、なにより色味が気に入って多くの写真を撮りまくった。

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最後はレンズに水滴が入って使えなくなっちゃったんだけど、今でも一番好きなカメラだし、35mmという画角が好きになったのもF31fdのおかげだ。(ちなみに2001年にFinepixの1700Zを買ったんだけど、こいつは画質が悪く、画角も狭くて、まったく熱を帯びませんでした。)

二度目に発症したのは、2009年の冬。だんだんコンデジの画質や操作感に飽き足らなくなって一眼レフが欲しくなり、キヤノンの EOS Kiss X3を買った。センサーが大きくなったぶん、写真の密度や立体感が段違いにアップして、嬉しくなって撮りまくった。3度目の発症は2012年の夏で、持ち歩き用にまたしてもキヤノンのPowershot S100を買った。あまりにクソすぎたiPhone 4のカメラと比べたら、S100の画像は驚くほど綺麗だった。これまた旅行や出張に行くたびに撮りまくった。その後、2015年の夏にも発症したのだが、ストロボとレンズの購入、S100の修理によって治った。

昨秋にiPhone 7を買ってからは、もうほとんどiPhone 7で撮影している。毎日持ち歩くものだし、写真の画質も悪くないし、防水ついてるし、ネットにつながるから、iPhone 7以上に楽なカメラって無いと思う。キヤノンのカメラは、もう差し迫った必要がないと使わなくなった。

だというのに、ここにきて再び、カメラ熱がやってきている。なぜなら、遂に富士フイルムの一眼が4K動画に対応したからだ。4Kがとれたら仕事にも生かせるし、ミラーレスだから出張時にも持ち運びやすいぞ。つまり、いよいよ富士にカムバックする大義名分ができたわけだ。そしたらもうヤバくて、暇があればカタログを眺めたり、価格.comをチェックしたり、自分用のAmazon 欲しいものリストにアイテムを追加したり削除したりして、思春期の子供みたいにヤキモキしている。