実学

数奇なもので、現職と母校の両校ともが、校訓に「実学」を掲げている。

本学は「学問としての技術の奥義を研究するのではなく、技術を通して社会貢献できる人材の育成」を目指しました。そのために、実物説明や実地演習、実験や実習を重視し、独創的な実演室や教育用の実験装置を自作するなど、充実に努めました。

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福澤がいう実学はすぐに役立つ学問ではなく、「科学(サイヤンス)」を指します。実証的に真理を解明し問題を解決していく科学的な姿勢が義塾伝統の「実学の精神」です。

慶應義塾について:[慶應義塾]

慶應実学は抽象的だが、福沢諭吉の学問のすゝめを読むと具体的になる。福沢の実学とは、市民が暮らしを立てるための学びである。よって現職と母校の理念は、通底している。

古来、漢学者に世帯持ちの上手なる者も少なく、和歌をよくして商売に巧者なる町人もまれなり。これがため心ある町人・百姓は、その子の学問に出精するを見て、やがて身代を持ち崩すならんとて親心に心配する者あり。無理ならぬことなり。畢竟その学問の実に遠くして日用の間に合わぬ証拠なり。
されば今、かかる実なき学問はまず次にし、もっぱら勤むべきは人間普通日用に近き実学なり。

福沢諭吉 学問のすすめ

現代において、そして教員としての自分にとって、実学とはなんだろうか。世の中には免許や公的な試験を受けないと就けない仕事がある。士業、医者、公務員、小中高の教員などだ。試験そのもは難しいかもしれないが、競争は公正で、学ぶべきことが明らかだ。一方、多くの学生は自由に参加できる仕事に就く。彼らが競争で生き残るために必要な学問こそが実学だと思う。

競争で負けないためには、先手を打つことだ。「Aを学べばBに活かせる」という王道ができてからでは、後塵を拝してしまう。よって予め「Aを学べばBに活かせるのでは?」と見当をつけ、自ら進んで試すべきだ。その生き方を身につけさせることが、自分が教えうる実学だ。